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名古屋高等裁判所 昭和54年(行コ)6号 判決 1985年4月24日

控訴人(原告) 沢田一 外一六名

被控訴人(被告) 江南市土地改良区

主文

一  本件控訴をいずれも棄却する。

二  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取消す。

2  被控訴人が控訴人沢田一、同沢英撚糸株式会社、承継前控訴人古知野撚糸株式会社、控訴人沢田正、同江沼孝四郎、同冨田辰右エ門、同沢田光夫、同林幸夫、同森土岐葭に対して昭和四三年八月六日付で、同木村勲、同早川すみゑに対して昭和四五年二月二日付で、同江沼富、同江沼勇、同江沼丈夫に対して同年九月一一日付で、同後藤進に対して昭和四六年二月九日付で、同大森弘芳、同武田猛に対して同年五月一四日付で、同今枝一義(承継前今枝きみゑ)に対して同月一八日付でそれぞれなした原判決別紙目録記載の各土地を被控訴人の地区から除外しない旨の各処分はこれを取消す。

3  訴訟費用は第一・二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文同旨

第二当事者双方の事実上の主張並びに証拠関係は次に付加訂正するほかは原判決事実摘示と同一であるからここにこれを引用する。

一  控訴人の主張

1  原判決五枚目裏七行目「1」以下六枚目表末行までを「控訴人らの本件土地の取得時期、取得原因は別表(一)のとおりであり、農家・非農家の別、転用手続、転用前の農地の種類、利用状況等は別表(二)のとおりである。」に改める。

2  本件地区除外をしない旨の処分が違法であることは次の理由からみても明らかである。

(一)(1) 土地改良事業は土地改良法一条に明記されているとおり、農用地の改良、開発、保全及び集団化に関する事業であり、農用地を対象とするものであることが明らかである。従つて宅地は原則として事業地域に編入することは許されず、当初編入された農用地が宅地転用となつた場合にはこの土地は地区から除外しなければならないものである。これが土地改良法の基本構造である。

(2) 地区内に非農用地を編入することが許されるのは、当該改良区が定款をもつて、土地改良事業として法二条二項三号の農用地造成事業ないし同項二号の区画整理事業に附帯する農用地造成工事を定め、その事業として当該宅地を農用地に変える場合に限られる。なお昭和四七年の法改正では厳格な要件のもとで非農用地の地区編入を許容する規定(五条七項、七条四項、八条五項、五三条)が新設されたが、本件土地はすべて建築物の敷地でありかかる例外規定に定める場合に入らないことは明らかである。そして以上いずれの場合でも、いやしくも宅地を地区に編入するに当つては権利者全員の同意を要件としている(五条四項、七項、六条)。また同改正による員外受益者賦課の新設にもみられるように、宅地権利者の利益保護を図り、明確な個別的同意を要件とする趣旨が明らかであり、宅地化の進展に伴ない、宅地と農用地の区別は、利害調整の必要性の高まりからより明確なものになつてきているというべきである。

(3) 農用地が農地転用等により宅地化した場合、宅地化の時期が工事の着工前であろうと、着工後であろうと地区除外するのが法の解釈、行政実例である。甲第七二号証の二に示す行政実例は、但し書で「区画整理事業では宅地を農地とする場合又は宅地の一部を道水路の敷地とする場合に、その宅地の権利者の同意を得たときのほかは、その施行地域から除斥すべきである。」と示達している。

(二) 控訴人らは被控訴人の組合員ではない。控訴人らはすべて本件各土地を宅地として取得した者である。譲渡人は農地の所有者であつたから三条資格者であつた。しかし右土地譲渡により譲渡人は三条資格を喪失、同時にその土地は農用地性を喪失し譲受人たる控訴人らには三条資格は承継されない。即ち土地改良区の事業に関する権利義務は控訴人らに承継されない(四二条)のである。被控訴人が控訴人らを組合員として扱つていなかつたことは昭和四三年七月現在の改良区総代会総代選挙人名簿に控訴人らの氏名を一人も掲載していないことからみても明らかである。

(三) 第一九工区(上奈良工区)は昭和四二年一二月、第一二工区(和田勝佐工区)は同年一一月、第一八工区(島宮工区)は昭和四五年一〇月にそれぞれ設立総会が開催され、被控訴人の土地改良事業計画に基づく各工区の実施計画、換地規程、工区長等役員の選出が議題とされ、この時期以後において工事に着手した。本件土地はいずれも右各所属工区発足以前に控訴人らにおいて宅地に転用されたものである。農用地か否かは右工区発足時点を基準として判断すべきである。

(四) 被控訴人は本件各土地を一律に農地(新宅地)とみなし、区画整理の対象とし、あくまで地区除外を拒否し、計算上の減歩を課し、換地処分時に最価を標準として金銭賦課をしようとしている。そして土地改良事業の一切の費用は市費負担となつているから、控訴人らから徴収予定の金銭(坪当り数万円となる)は農地所有者らに分配されることになるはずである。宅地についてそもそも同意なしの減歩はありえないし、農地並みの減歩を前提とすれば、近傍道路の新設、拡幅をもつて、安易に「受益」ありとすることはできない。

(五) 六六条の「土地改良区の事業による利益」を被控訴人主張のように、排水施設の新設、改修、近傍道路の新設、拡幅を含むと解すると、道路や排水施設はまず例外なく地区全域に及んで計画、実施されるから、実際問題として、地区除外が肯定される場合は転用に関しては皆無となるといつてよい。かくては、農地転用と地区除外は全く無関係なものとなり、土地改良法の基本構造を破壊することになる。昭和四七年改正による員外受益者賦課の制度は、「利益」をあらゆる利益ではなく農地的効果・効用を指すとの受益概念に立つて、厳格な要件のもとに強制徴収の道を開いたものであり、右「受益」の概念も六六条の場合と統一的に解釈すべきである。

3  控訴人沢英撚糸株式会社は昭和五四年一二月三日控訴人古知野撚糸株式会社を吸収合併し、同社の権利義務を承継した。

二  被控訴人の主張

1  原判決一〇枚目裏三行目「同四、1のうち」以下一一枚目表一行目終までを「別表(一)は認める。別表(二)のうち「農家・非農家の別」、「転用前の農地の種類」は不知、本件各土地は被控訴人設立当時いずれも農用地であつた。」に改める。

2  控訴人主張1は争う。

(一)(1) 宅地の編入は農地造成事業に限られない。非農用地でも権利者が同意すれば地区に編入することができる。のみならず土地改良施設の用に供されている土地、農用地に隣接、附帯または介在している土地で農用地に従属して存在しているもの等通常土地改良事業の施行に係る地域に含めることが相当と認められるものについては編入の同意は必要としないものである。本件土地は農道たる土地改良施設(二条二項一号)の敷地に一部がかかつているとか、農用地に隣接、附帯又は介在している土地であり、土地改良事業の施行にかかる地域に含めることが相当な土地であつた。従つて同意なしに編入可能な土地であつたから、かかる土地ないしこれに準ずる土地について、農用地から宅地に転用されたからといつて、地区から除外すべきでない。

(2) 本件は宅地の地区編入の問題ではなく、本件土地は編入当初から農用地であり、編入自体には問題のない事案である。そして昭和四七年の法改正(三条六ないし八項、五条七項、七条四項、八条五項、五三条一・二項)は、換地計画を伴う土地改良事業を実施するに際し、その事業実施地域内に介在する農用地以外の土地をこの事業施行地域に取り込むことができるようにし、現実を直視して、事業の合理的推進を図ることができるようにしたものであり、この考えからいえば、農用地を宅地に転用しても必ず除外しなければならないということにはならない。

(3) 甲第七二号証の二の行政実例は、本文で「宅地であつても事業実施地区内にある土地はすべて換地の対象となる。」と述べており、被控訴人の見解を裏付けている。但し書は当初から宅地で編入の同意がないときは施行地域から除外しておくという当然のことを述べたものである。

(二) 控訴人らは三条一項三号の農用地以外の所有者として三条の資格者であり、本件土地の譲受けによつて組合員たる資格を取得する(四二条)。総代選挙人名簿に登載漏れがあつたが、それは単なる事務上のミスである。

(三) 被控訴人は昭和三一年一月一九日設立認可を受けており、工区は右認可時において存在するものである。右認可後に工区を設立するということは法律上ありえない。農用地か否かの基準は右設立認可の日とすべきであり、工区設立総会の日とすべきではない。

(四) 被控訴人が換地規程に基づき、本件各土地を農地とみなし、区画整理、そして将来の換地処分の対象としていることは認める。しかし評価、清算は農地並みで行なうものであるから、仮に清算金が徴収されるとしてもその金額は小さい。利用の増進、受益があるからこそ減歩がありうるのである。そしてそもそも減歩とか清算金の問題は地区除外の問題と関係がない。

(五) 道路や排水施設は、まず例外なく地区全域に及んで計画、実施されるので、農地転用によつて地区除外が肯定されるのは、大規模団地造成の如き土地改良事業により利益を受けないことが文字どおり明らかになつた場合であり、それ以外は皆無となることは控訴人主張のとおりである。農用地に隣接、附帯、介在する土地については除外ということは考えるべきではない。これらの土地は、通行にも排水にも土地改良事業ないし土地改良区が作つた道路、排水路を利用しないことには独立して宅地として存在し得ないからである。

3  控訴人主張3の事実は認める。

三  証拠<省略>

理由

一  訴の適否について

土地改良法六六条に基づく地区除外申請に対する除外しない旨の本件行政処分取消の訴が不適法であるとの被控訴人の主張は理由がなく、本件訴は適法であると当裁判所も判断するところ、その理由は原判決一八枚目表八行目から二〇枚目裏一〇行目までの理由記載と同一であるからここにこれを引用する。

二  本案について

1  被控訴人が昭和三一年一月一九日認可設立された土地改良区であること、控訴人らは被控訴人の地区内に原判決別紙記載の各土地を所有していること、右各土地についての所属工区は別表(二)記載のとおりであり、第一二工区については昭和四四年一一月以降、第一九工区については同年一二月以降、第一八工区については昭和四五年一一月以降事業が着工されたこと(請求原因一ないし三の事実)、及び本件各土地のうち、G土地を除くその余の土地が被控訴人設立当時地目、現況とも農用地(畑等)であつたが、別表(一)及び(二)記載のとおり、その後本件L及びイ土地を除き控訴人らが前主から売買、贈与、相続等によつて同土地所有権を取得し、その機会に同土地は宅地転用手続を経て宅地に転用されたこと以上の事実はいずれも当事者間に争いがない。そして成立に争いのない甲第八号証、真正に成立したと認められる前顕乙第一一号証並びに原審証人沢田一の証言によると、本件G土地は地目・現況とも畑であつたが、昭和二四年頃古知野撚糸株式会社が沢田治美より買受け、昭和二五年頃事実上宅地に転用し建物の敷地としたこと、そしてその後転用手続を経て昭和三三年一一月二四日、同日付売買を原因として所有権移転登記手続をしたこと、成立に争いのない甲第一二号証の二、乙第三二号証の二の一ないし四並びに当審における控訴人沢田光夫本人尋問の結果によると、本件L土地は地目・現況とも畑で沢田権市の所有であつたところ、昭和三七年二月控訴人沢田光夫に贈与され、農地法五条による許可を受け宅地に転用されたが、登記手続をしないまま昭和四〇年一二月四日に至り権市が死亡したので、控訴人沢田光夫が相続を原因とし、昭和四四年二月四日登記を経由したのであるが、現在も地目は畑となつていること、また成立に争いのない甲第五九号証、当審証人尾関儀市の証言によると、本件イ土地は地目・現況とも畑で今枝文左エ門が所有していたところ、昭和二六年三月同人死亡により今枝きみゑが相続により同土地所有権を取得し、被控訴人設立後転用手続を経ないまま事実上宅地に転用したことがそれぞれ認められる。以上によると、本件G土地は被控訴人設立以前から現況宅地(但し地目は畑)であり、その余の本件土地はいずれも当時農用地であつたが、その後宅地に転用され、工事着工となつた、もつとも本件L及びイ土地については地目は畑になつているというべきである。そして控訴人らは(本件イ土地については今枝きみゑが)土地改良法六六条に基づき、本件各土地を地区より除外するよう申請したところ、被控訴人は控訴の趣旨記載の各日付をもつて、右控訴人らに対し本件各土地を地区から除外しない旨の処分をし、その旨通知したこと、今枝きみゑは昭和五〇年六月四日死亡し控訴人今枝一義が同人を相続し、また控訴人沢英撚糸株式会社は昭和五四年一二月三日控訴人古知野撚糸株式会社を吸収合併し、それぞれ権利義務を承継したことはいずれも当事者間に争いがない。

2  以上によると、被控訴人の地区に編入された土地の中には編入時点ですでに宅地(非農用地)であつたもの、編入時点においては農用地であつたが、その後宅地に転用されたものが含まれるところ、控訴人らは被控訴人施行の本件土地改良事業によつては利益を受け得なくなつた旨主張するので判断するに、控訴人はその前提として、同法六六条の「事業による利益」の意味は、同法の目的ないし同法が定める基本構造に照らして判断されなければならないと主張するのでまずこの点につき判断する。

(一)  昭和四七年改正前の土地改良法によると、同法は農用地の改良、開発、保全及び集団化に関する事業を適正かつ円滑に実施するために必要な事項を定めて、農業生産の基盤の整備及び開発を図り、もつて農業の生産性の向上、農業総生産の増大、農業生産の選択的拡大及び農業構造の改善に資することを目的としており(一条)、その目的としての対象土地が農用地にあることを明らかにしている。しかしながら同法は土地改良事業として<1>かんがい排水施設、農業用道路その他農用地の保全又は利用上必要な施設の新設、管理等、<2>区画整理、<3>農用地造成その他を定め(二条)、これを実施するためまず施行しようとする事業によつて利益を受ける土地即ち受益地を一定の地域として特定し(五条)、その一定地域内の土地所有者等を事業に参加する資格者即ち三条資格者として定め、その者に組合員たる資格その他の権利義務を与えている。従つて右<3>の場合は非農用地を農用地に造成する事業であるから、非農用地が事業実施の対象土地となることが明らかであり、<1><2>の事業についても、それが純然たる農山村・田園地帯で行なわれるなら格別、農用地内に宅地が点在する地域で同事業を施行する場合は宅地編入を考慮しないわけには行かないというべきである。例えば、<イ>排水施設や道路の新設は農用地の改良・保全に資するものであるが、農用地内に介在する宅地にとつても、住宅汚水の排出、通行などの利益があり、また<ロ>農用地を対象として区画整理を行なうとしても、対象農用地に付属又は隣接或いは囲まれた宅地があるとき、個別契約では不十分であつて、これら宅地をも含めて区画整理の対象にしないと適切・効果的な農用地の換地計画が樹てられていないことが予想されるのであつて、かかる例外的な場合には、農用地と関連する宅地についても当初から受益地として一定の地域内に編入することができるというべきである。もつとも右宅地編入については一応関係権利者全員の同意が必要であると解すべきであるが、右の如く事業実施の対象土地を農用地に限定せず、事業の性質上必然的に、或いは事業実施の必要上例外的に非農用地を一定の地域内に編入することを認めることは、何ら法の目的に背馳せず、その基本構造に抵触するものではないというべきである。

(二)  昭和四七年の同法改正後も右目的ないし基本構造には変化なく、農用地造成事業に全員の同意を得て非農用地を編入することができることは勿論として、都市化の進展に伴なう利用の競合に対応し、土地改良事業の円滑かつ合理的推進を図るため、<ハ>建築物の敷地、墓地、境内地その他の農用地以外の土地で政令で定めるものも、関係権利者全員の同意によつて一定の地域内に編入できることが明記され(五条七項)、その区画整理事業においてもこれらの非農用地をとり込んで施行することができることとなつた。しかもこれらの非農用地等で区画整理事業施行後も非農用地等であるものの関係権利者には原則として三条資格を与えないこととし(三条八項)、負担軽減のもとで事業への参加促進を図つている。そしてこれら非農用地のうち、<ニ>土地改良施設用地や農用地に隣接または介在している土地で農用地に従属して存在するものなど、通常土地改良事業の施行地域に含めることが相当と認められるものについては、関係権利者全員の同意を得る必要もないことを明らかにしている(令一条の四)。従つて改正後も法は非農用地の編入について極めて消極的、限定的であるとみるのは当らない。なお三六条八項によると、土地改良事業によつて利益を受ける者で省令で定めるもののうち、その者の受ける利益を限度としてその土地改良事業に要する経費の一部を徴収することができる旨定められたが、この規定は例えば、地区に編入することを同意しない非農用地受益者を対象として経費徴収の途を開いたものと解され、かかる規定があるからといつて、例えば排水施設事業による区域内宅地所有者の利益は事業による受益に当らないとか、同宅地所有者は地区編入ができないと解するのは相当でなく、前記<イ>の受益の解釈に影響はないというべきである。

(三)  以上の如く、土地改良地域への宅地編入は一定の要件のもとで可能であり、従つて編入当時は農用地であつて編入自体には何ら問題はなく、その後の転用の結果宅地となつた場合であつても、その宅地について前記<イ><ロ>ないしは<ハ><ニ>の如き宅地編入の要件が肯定される場合には、転用によつて直ちに受益が消滅したとするのは相当でなく、実質的に事業による利益を受けなくなつたか否かを判断して地区除外の可否を決すべきものと解するのが相当である。

控訴人主張の前記第二、一、2、(一)、(1)及び(2)は右と見解を異にするものであつて採ることを得ないものであり、成立に争いのない甲第七二号証の一・二によつて認められる行政実例も必ずしも控訴人の主張に沿うものとはいえず、成立に争いのない甲第二七号証、第四〇号証の一ないし四は地区除外の処理方法を定めた手続規定であつて、それ自体は実質的な受益の有無の判断基準となるものではなく、以上の判断に抵触する原審証人橋本強の証言は採用できない。

控訴人は更に、第二、一、2、(二)の主張において、組合員資格を問題としているが、一定の地域から除外されたときは、その土地について組合員であつた者は、その土地についての組合員資格を失い、土地改良区との間で必要な決済をしなければならず(四二条二項)、除外されなかつたときは依然として組合員として留まる、或いは五条申請による転用の場合は前組合員の権利義務を承継し組合員となる(四二条一項)と解され、組合員資格の有無の判断が地区除外の可否の判断に先行するものでないことが明らかであるから、控訴人の右主張は失当である。

3  そこで以上の観点に立つて本件につき判断するに、真正に成立したと認められる前顕乙第一一号証、並びに原審(昭和四三年(行ウ)第六二号)検証の結果によると、本件G土地は被控訴人設立認可当時地目は畑であつたがすでに宅地に転用されて宅地となつていたこと、しかし、同土地は農用地帯内に介在する土地であつて本件土地改良事業によつて拡幅する予定の道路に面していて一部が削られる関係にあり、本件区画整理事業の対象地であつたこと、そして当時の所有者の個別的同意を得て被控訴人地区に編入されたことが認められ、宅地編入の要件を具備していることが明らかであり、その余の本件各土地はいずれも当時現況農用地であり、所定の手続を経て編入されたことは前認定のとおりであるから、本件土地のすべてについて地区編入については問題はなかつたというべきである。

なお控訴人らは、地区編入に問題はないとしても、区画整理工事着工前に宅地に転用されたから地区除外をすべきである旨主張し、本件各土地が各所属工区の工事着工前に宅地に転用されていたことは前認定のとおりである。しかしながら成立に争いのない甲第二〇・二一号証、原審証人橘川金義、同田中勝明、同沢田延明(第一・二回)の各証言を総合すると、被控訴人は設立認可時に全体的な換地計画を有しており、工区もその時点で存在していたが、工事は各工区別に行なうこととし、更に具体化のための測量、設計を行ない、各工区内の区画整理の対象となる土地権利者と協議を行ない、工区毎に換地規程を作り、工事に着工したことが認められる。すると控訴人主張の工事着工なる時点は、土地改良区設立後工事竣工に至るまでの単なる一経過点に過ぎず、従つて土地改良事業に編入すべき土地か否かの判断は土地改良区設立時をもつて基準とすべく、工事着工時によるのは相当でないというべきである。なお地区編入後本件農用地所有者又は譲受人(但しイ土地を除く)が宅地転用許可申請に際し、「転用によつて何等土地改良にご迷惑を掛けることがないことを誓約する」旨の覚書を提出していることは、原判決一九枚目裏七行目から二〇枚目裏五行目「認められる」までの理由記載と同一であるからここにこれを引用する。すると右控訴人らは設立認可後工事着工前の宅地転用は土地改良事業の施行に影響を及ぼすべきものでないことを承認したものと認めるを相当とすべく、以上によると宅地転用が工事着工前であることのみをもつて本件除外の理由とすることはできず、控訴人の右主張は理由がない。

4  そこで次に本件土地改良事業による控訴人らの現実の受益の有無につき判断するに、当裁判所も、右受益の有無は、事業の種類(工種)によつて判断すべきものであること、被控訴人は事業として、かんがい・排水施設の新設、改修、区画整理、農道整備を目的としているところ、控訴人らは右事業によつて道路の新設・拡幅、排水路排水溝の新設・改修による利益を受けていることを認定するところ、その点の認定・判断は次に付加・訂正するほかは原判決二二枚目裏三行目から二六枚目裏六行目までの理由記載と同一であるからここにこれを引用する。

(一)  原審証人木村楠太郎の証言により真正に成立したと認められる乙第五九号証の一・二、原審(昭和四三年(行ウ)第六二号、昭和四六年(行ウ)第四六号)における各検証の結果及びこれにより真正に成立したと認められる乙第六二号証、当審証人林洋美の証言によると、本件I、U、V、W、P、Q、R、O各土地については換地処分の対象とされ区画に変更が加えられ、P、Q、R、及びO土地については増歩となつていることが認められるから、右各土地については区画整理事業による直接の利益をも受けていることが明らかである。

(二)  以上認定に抵触する当審証人林洋美の証言、当審における控訴人沢田光夫、同江沼富、同沢田正、同大森弘芳、同武田猛、同後藤進、同冨田辰右エ門、同早川すみゑ各本人尋問の結果は採用しない。なお原判決二四枚目表八行目「四九、」を削り、「五〇号証、」の次に「当審証人後藤勲の証言及びこれにより真正に成立したと認められる乙第四九号証、」を加え、一〇行目「同沢田延明(第二回)」を「同沢田延明(原審第二回及び当審)」に改め、「同木村楠太郎」の次に「当審証人尾関儀市」を加える。

5  当裁判所も控訴人らのその余の主張が理由のないものと判断するところ、その理由は原判決二七枚目表一行目から二八枚目裏六行目までの理由記載と同一(但し二八枚目表末行「不可決」を「不可欠」に改める)であるからここにこれを引用する。この判断を覆えすに足りる適切な証拠はない。

三  以上によると、控訴人らの主張はすべて理由のないことが明らかであり、本件各土地は土地改良法六六条の「事業により利益を受けないことが明らかになつた場合」に該当するとはいえず、本件地区除外申請に対し除外しないとした本件各処分は適法であるというべきである。すると控訴人らの本訴請求を失当として棄却した原判決は相当であるから本件控訴をいずれも棄却することとし控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 山田義光 井上孝一 喜多村治雄)

別表(一)、(二)<省略>

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